「日本の名随筆」(作品社)というシリーズ本があります。
本巻100巻・別巻100巻の各巻ごと、「花」「釣」「庭」「老」などのテーマでまとめられていています。
随筆を書いた人も作家にとどまらず、明治以降の各界著名人。
一つ一つの随筆はそれ程長くありませんから、気楽に読めます。
近所の図書館にこのシリーズの所蔵があり、ずらーっと並べれらた本を端から眺めていましたら、38巻の「装」というタイトルに目が留まりました。
目次を開いていてみると知った名前もあるし、着物についての文もたくさんありそうだったので、興味を持って借りて来ました。
随分昔の文章で今の若い方にはちょっと実感できないこともあるかもしれませんが、少しご紹介しようと思います。
まず一人目は、書家の篠田桃紅さん(1913~2021)。
篠田さんはこのブログにも何回か登場していただいていますが、
100歳を越えてエッセイも書き、生涯を着物で過ごした方です。
篠田さんは「うら、おもて」という随筆の中で、着物の裏地について書かれています。
「無地の表に、色数を取り集めたような、こまかい柄の裾や袖口から、細い染め縞がのぞくのもたのしい。きもの着では、ほんの少ししかこぼれない色ほど、
大切にしたい。裏に心をこめておくのは、自己へのいとおしみでもあるようで、脱いで畳む時など、着物へのいたわりや愛着の心が湧く」
次は歌人の生方たつゑさん(1905~2000)。
「きものの花」という随筆の中で、幼い頃に着物についてお母さまから教えられたことなどを書いています。
「昔は必ず自分の物は自分で縫った。ゆかたは勿論、仕立て上がったものを着るのは恥だとも教えられていて、必ず縫った・・・どのように暑い日でも、女が腰紐一本でいてはならぬ、とされた。女の含羞の美しさを昔の人はしつけの中で娘に
教えていたらしい。暑い日にだらしのない形は、いっそうむし暑さを助長させるから、シャンとした形をしとりなされ、と母は常に女の子のわたしたちに言った・・・むしむしする水蒸気の多い日本の夏に、きもののもつ難儀を難儀とせず、きものに魅せられているとき、私は美しい日本の「形」の中にこめられている心の緻密さを感じとることが出来る」
最後は随筆家の森田たまさん(1894~1970)。
森田さんの随筆には着物を扱ったものがたくさんあるそうです。
この本に納められた「襦袢の袖」には、
「じゆばんの袖といふものは自分の眼にはつかないので、女の人はつい油断をするらしいけれど、ある場合には半衿なぞよりずつと人眼にたつ事がある・・・じゆばんの袖はほんおちらりと見えるものでありながら、その好みのよしあしは服装全体に大きな影響をもつてゐる・・・ちらりとのぞくじゆばんの袖が、汚れてゐたり袖口の色と調和がわるかつたりすると、まつたくそんにきりやうがよくとも興ざめる」
古い文章なので現代の感覚とは少し異なるかもしれませんが、
他にもさまざまな方の随筆が載っていますから、興味のある方は読んでみて下さい。
「装」以外にも、別館58巻に「着物」という本もありますよ。